夢のみなもと人生ノート

「夢のみなもと」とは、やりたい夢を描いている本当の自分という意味で使っています。日常に起こる様々な出来事や過去の思い出から自分らしく生きる人を通して気づいたことを人生ノートとして綴っています。

トップセールスウーマンの接客術に学ぶ

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「未使用車専門店」という大きな看板が 街中に立っているのを見られたとこがあると思う。「未使用車」とは状態は新車ではあるが、すでにナンバー登録しているので 実質的には新車とは言えない。

なぜこのようなことが発生するのかというと、 デーラーが新車を販売する際に、 販売成績に応じて販売店に 奨励金を出す仕組みになっているからだ。客にとっても重量税がすでに支払われているので新車よりも少々割安になるというメリットがある。

 車を購入する数が多ければ、 それだけ報奨金も多く入ってくる。 そのために販売店はあらかじめ余分に発注するのだが、 仕入れた車がすべて売れるわけではない。そこで在庫に残ったものが未使用車となるわけである。
 

普段、私は8人乗りのワゴン車に乗っている。だが最近、母親の介護のために大阪の実家に戻ることが多く、 車を置くスペースを考慮し、この際思い切って 燃費のいい軽四車への乗り換えを検討することにした。

そこで先日、新聞のチラシに掲載されていた二軒の未使用車専門店を訪問したのである。 その対応の仕方が、一流販売員と二流販売員とでは歴然と違いがわかる。今回はその時感じた率直な感想を紹介する。

まず、一軒目に訪問した販売店。 ここはスペースも広く、スタッフ数もかなり多い。 品揃えも豊富で100台以上は陳列されていた。

その中で対応したのが一人の中年男性だった。ところが男性と話をしていくうちに、 だんだんと買う気が失せていく。理由は客のニーズを聞く前に、 自分の都合を押し付けてくるからである。価格は思ったより安い。 ところが、付帯経費がずいぶんと割高になっている。しかも次回3年後の車検料金まで上乗せになっている。

納得しかねている私に、男性は言い訳がましく弁解する。
「車自体には儲けがなく、むしろ赤字なので、
次回の車検代を先にいただくことで利益をカバーしています・・・」

そんなことは誰も聞いてもいないし、 客にとってはどうでもいい話である。 しかも未使用車の利益構造を知っているだけに余計にしらけてしまう。 車の下取りは結構いい値段を出してくれた。にもかかわらず買う気にはれない。

続いて二軒目のお店。 ここは一軒目の店の10分の1にも満たない小さなスペースだった。 本業は修理工場で、どうやら片手間で車も売っている、 一見そのように感じる雰囲気の店だった。

品揃えも20台ほど。一軒目の店と比べると極端に少ない。 一回りすれば全ての車種が物色できるほどの数である。 しかも最初に訪問した販売店よりも価格も割高となっている。そこに40歳後半の一人の女性が登場。 バリバリの営業ウーマンとは程遠い、 いたって普通の主婦という感じの人だった。 名刺を差し出し、彼女の最初に発した言葉はこうである。

「販売担当のHです。 私のできる範囲で、お客様の要望にできるだけお応えします」
この誠意ある一言で客の心をぐっとつかんでくる。

「燃費が良くて、お手頃なおすすめ商品はありますか?」
そう尋ねると彼女は、一般的な言葉で対応する。
「こちらのお車はどうでしよう!今、人気の車です。 カタログ燃費はリッター30となっていますが、 実燃費は七掛けでリッター20ほど走ります・・・」

ところが勧められたのが、なんとオレンジの、超ど派手な色。 もちろん自分では絶対に選ばない色である。
「こんな色は女性か、もっと若い人が選ぶんじゃないですか!」
少し戸惑いながら答えるが、すかさずこう切り返してくる。

「こういうオシャレな色を、 50歳過ぎの方が乗りこなすから、かっこいいんじゃないですか・・・」
すでに60歳を過ぎた私にとっては、なんともうれしいお言葉である。

「いや、いや、私はもうすでに、還暦を過ぎてますから・・」
お世辞と分かりつつも、気持ちはまんざらでもない。
「いや、それは絶対見えませんわー。私と同じくらいと思うてました。この車を乗ると気持ちまでお若くなりますよ。絶対気にいってもらえます」
 
相手を持ち上げながら自信を持って言い切ってくる。 さらに客を惹きつける言葉を次々と投げかけてくる。
「ナビとETCもお付けします。3年間のオイル代もサービスします」
私が即答しかねていると、しばらく間をおいてこう提案する。
「もし価格がお気に召さないようなら、
ご予算に少しでも近づけるように上司に一度相談してみますが、いかがですか」
 
一軒目の店は最初に安く提示しながら付帯経費で稼ごうとする。 一方この店は最初は割高と思える価格から客が納得していく提案を投げかけてくる。自信のない販売員は目先の値段で客の気を引こうとするが、自信のあるセールスウーマンは接客術で勝負する。

結局、一軒目に訪問した販売店と同じくらいの価格になっていくのだが、 彼女の熱意のこもったトークに、こちらも自然とペースにはまっていく。それなのに、まったく嫌な気持ちにはならないのが不思議である。

「ところで、今乗ってきたワゴン車の下取り価格はいくらになりますか」
そう尋ねると、彼女は早速係りの人に見積もりを取ってもらう。 ところが提示された金額がかなり低く、一軒目の4分の1ほどの査定だった。

「それはあまりにも低すぎますよ。 一軒目のお店は、その4倍ほどの査定でしたよ」
私が残念な表情を示すと、それに対しても彼女は反論しない。
「そうなんです。うちは下取り価格が低くて有名なんです」
自分のマイナス面を隠さず、言い訳もせず、正直に話す。そして、私の耳元に寄り添い小さな声でこう切り出してくる。
 

「査定なら買取専門会社〇〇のTさんに、ぜひ相談してみてください。このあたりでは彼が一番良心的です」
なんと自社の不利な条件を他店を紹介することでカバーしようとする。 しかもメモを取り出して丁寧に電話番号と住所まで記入して渡してくれた。

「そこで査定してもらってから、もう一度検討してみてください・・・」
やれることは全てやる。それ以降は客の判断に委ねる。とても潔い対応である。もちろん会社には内緒で彼女独自の判断だろう。

早速、その足で紹介してもらった中古車買取専門会社に行ってみる。 すると彼女の言う通り、納得の価格を提示してくれたのである。 そこでもう一度引き返して、その場で購入を決めた。

契約を結ぶときに私は彼女に聞いてみた。
「Hさんの営業成績は、かなりいいでしょう。」

「当社は、ダイハツ販売数全国一位です」
返ってきた言葉に私は唖然とした。これまで数多くの販売員と接してきたので、ある程度の見当はつく。だが、まさか全国一とは予想だにしなかった。
 
二軒の販売店を比較してどこが違うのか。値段の差はほぼ同じ程度だが、 店のスペース、品揃え、スタッフ数、それに下取り価格といい 条件的には一軒目の販売店の方がはるかに有利だと思える。ところが圧倒的に不利な条件であっても、結果的にはそちらを選ぶことになった。

二流販売員は売れない原因を環境のせいにし、言い訳をする。それに対し、一流セールスウーマンは、今ある現状を受け入れ、その中でいかにお客に納得してもらえるかを考え、誠意を尽くす。やはり結果を出す人は、相手の目線に立った姿勢を終始忘れない。しかも購入を決めた販売店の販売員はわずか3名。 もちろん彼女はその中で、ダイハツ販売数全国一の実績を持つ トップセールスウーマンだったのである。

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